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福岡高等裁判所宮崎支部 平成4年(ネ)113号 判決 1993年2月24日

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、金八〇万二二六六円及び内金四三万六七九七円につき昭和五七年五月一七日から、内金三六万五四六九円につき昭和五七年五月二三日から各支払済まで年三割六分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金五四四万円並びに、(一)内金九八万円に対する昭和五七年四月一〇日から同年五月九日まで年一割八分、同月一〇日から支払済まで年三割六分の各割合による金員、(二)内金九九万円に対する昭和五七年四月一二日から同年五月一一日まで年一割八分、同月一二日から支払済まで年三割六分の各割合による金員、(三)内金九七万円に対する昭和五七年四月一四日から同年五月一三日まで年一割八分、同月一四日から支払済まで年三割六分の各割合による金員、(四)内金九五万円に対する昭和五七年四月一六日から同年五月一五日まで年一割八分、同月一六日から支払済まで年三割六分の各割合による金員、(五)内金五五万円に対する昭和五七年四月一七日から同年五月一六日まで年一割八分、同月一七日から支払済まで年三割六分の各割合による金員、(六)内金六〇万円に対する昭和五七年四月二二日から同年五月二一日まで年一割八分、同月二二日から支払済まで年三割六分の各割合による金員、(七)内金四〇万円に対する昭和五七年四月二三日から同年五月二二日まで年一割八分、同月二三日から支払済まで年三割六分の各割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者の主張は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目表二行目、同八枚目裏五行目の各「準消費貸借金債務」をいずれも「準消費貸借金債権」に改める。

2  同七枚目裏九行目の「貸金債務」を「貸金債権」に改める。

3  同九枚目裏一行目の「ない。」の次に「なお、原判決別紙計算書3の番号<10>は、被控訴人が控訴人に対し持参して割引を受けたものではない。」を加える。

4  同一〇枚目表一行目の「(三)手形」から同三行目の「消滅している。」までを削る。

5  同一〇枚目表四行目と同五行目の間に、次のとおり加える。

「七 再々抗弁

1  控訴人主張の約束手形金債権は、裏書人に対するものであるから、支払期日である昭和五七年四月二四日から一年経過したことにより、時効消滅した。

被控訴人は、本訴において、右時効を援用する。

2  被控訴人は、抗弁1(一)において原判決別紙計算書1の金一七〇万二四六四円の不当利得金返還請求債権をもって金九五万円及び金五五万円の合計金一五〇万円の準消費貸借金債権(原判決中の請求原因2の(一)及び(二))と対当額において相殺したので、被控訴人は、控訴人に対し、右差額金二〇万二四六四円の不当利得金返還請求債権を有する。

そこで、被控訴人は平成五年二月一日の当審口頭弁論期日において、控訴人に対し、前記金二〇万二四六四円の不当利得金返還請求債権をもって控訴人の再抗弁に係る金一〇〇万円の約束手形金債権と対当額において相殺する旨意思表示した。その結果、控訴人は、被控訴人に対し、右差額金七九万七五三六円の約束手形金債権を有することになる。

しかして、原判決別紙計算書4によれば、抗弁1の(二)につき、被控訴人は、控訴人に対し、合計金一〇六万一一七三円の不当利得金返還請求債権を有する(なお、原審において、被控訴人は右不当利得金返還請求債権の金額を金一一六万六一三三円として主張したが、これは被控訴人の計算間違いであることが明白であるので、原判決の認定した原判決別紙計算書4の計算結果を援用して、右不当利得金を金一〇六万一一七三円と訂正する。)。

そこで、被控訴人は、平成五年二月一日の当審口頭弁論期日において、右不当利得金返還請求債権をもって控訴人の前記の金七九万七五三六円の約束手形金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

その結果、控訴人の前記約束手形金債権は、右相殺によって消滅した。

八 再々抗弁に対する認否

1  再々抗弁1の事実は争う。なお、時効によって消滅した債権であっても相殺が可能である(民法五〇八条)。

2  同2の事実は争う。約束手形金債権については、再抗弁において既に相殺済である。」

三  証拠関係(省略)

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求は主文掲記の限度で理由があると判断するものであって、その理由は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決の理由説示(原判決一〇枚目表八行目から同一八枚目表一行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目表二行目の「八木には」を「八木は」に改める。

2  同一一枚目裏八行目の「九三万八〇〇〇円万円」を「九三万八〇〇〇円」に改める。

3  同一二枚目表六行目の「1ないし3」の次に「(ただし、同計算書3につき、番号<10>関係部分を除く。)」を加える。

4  同一二枚目表九行目の「二〇〇万円」を「一〇〇万円」に改める。

5  同一三枚目表四行目の「この点について」の前に「もっとも、」を加える。

6  同一三枚目表一〇行目の「これをもって」の次に「、直ちに」を加え、同行目の「認定」を「断定」に改める。

7  同一三枚目裏一行目の「当初」から同二行目の「借主としたのは」までを「控訴人が資金を融通することになったのは、都城食品が営業資金を必要としたことから、同社が控訴人に借入れを申し込んだことが契機となっていること、もっとも、都城食品でなく、被控訴人が金員を受領することになったのは」に改める。

8  同一四枚目裏九行目の「4、5」の次に「(ただし、同計算書5につき、番号<10>関係部分を除く。)」を加える。

9  同一五枚目表四行目の「弁済期」の前に「右元本に対して」を加え、同行目の「同年」を「昭和五七年」に改める。

10  同一七枚目表四行目の「貸金債務」を「貸金につき天引きされた利息」に改める。

11  同一七枚目表一行目の「昭和五七年四月二二日頃」を「昭和五七年四月一六日ないし同月二三日」に改める。

12  同一七枚目表九行目の「抗弁1の(一)」を「抗弁及び再抗弁」に改め、同一〇行目の「被告」の前に「抗弁1の(一)につき、」を加える。

13  同一八枚目表一行目の次に、改行のうえ、次のとおり加える。

「同様に、抗弁1の(三)につき、被控訴人が、昭和五五年五月七日、都城食品振出に係る支払期日同年六月六日、金額一〇〇万円の約束手形を差し入れて控訴人から一〇〇万円を借り受け、利息六万二〇〇〇円を天引きされたこと、以後、被控訴人は、控訴人に対し、右貸金一〇〇万円について、原判決別紙計算書3(ただし、番号<10>を除く。)記載の振出日、支払期日、金額のとおりの約束手形(いずれも都城食品振出)を差し入れ、その都度月六分の割合による利息を天引きされたこと、右計算書番号<1>ないし<21>の各手形(ただし、同<10>の手形を除く。)はいずれも銀行取立てに回り、決済されたこと、以上の事実は前記一で認定したとおりである。

そうすると、原判決別紙計算書5(同別紙計算書3を計算しなおしたもの)記載の番号<1>ないし<21>の貸金(ただし、<10>の資金を除く。)について天引きされた利息の合計は一二七万三〇〇〇円となり、これに対する利息制限法所定の制限内利息は二九万五五七四円であるから、九七万七四二六円が過払いとなり、被控訴人は、控訴人に対し、同額の不当利得金返還請求債権を有することとなる。

なお、抗弁1の(二)につき、被控訴人が、昭和五五年四月二六日、都城食品振出に係る支払期日同年五月三〇日、金額一〇〇万円の約束手形を差し入れて控訴人から一〇〇万円を借り受け、利息七万円を天引きされたこと、以後、被控訴人は控訴人に対し、右貸金一〇〇万円について、原判決別紙計算書2記載の振出日、支払期日、金額のとおりの約束手形(いずれも都城食品振出)を差し入れ、その都度月六分の割合による利息を天引きされたこと、右計算書番号<1>ないし<21>の各手形はいずれも銀行取立てに回り、決済されたこと、以上の事実は前記一で認定したとおりである。そうすると、原判決別紙計算書4(同別紙計算書2を計算しなおしたもの)の番号<1>ないし<21>の貸金について天引きされた利息の合計は一三七万八五〇〇円となり、これに対する利息制限法所定の制限内利息は三一万七三二七円であるから、一〇六万一一七三円が過払いとなり、被控訴人は、控訴人に対し、同額の不当利得金返還請求債権を有することとなる。

そこで、控訴人は、再抗弁において、平成四年四月一三日の原審口頭弁論期日に、(三)手形の約束手形金債権をもって、被控訴人の不当利得金返還請求債権のうち、発生の時期の早いものから順に右約束手形金に満つるまで対当額で相殺する旨の意思表示をした旨主張するので、まずこの点について判断する(なお、控訴人が再抗弁における相殺の意思表示をした日は、被控訴人が後記の抗弁における相殺の意思表示をした日と同一の日であるが、時間的には、再抗弁におけるそれのほうが早くなされたことは本件記録上明らかであるから、まず、この再抗弁における相殺の効力を判断すべきこととなる。控訴人が右年月日に右相殺の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。)。この点、被控訴人は、抗弁1の(二)において、被控訴人の不当利得金返還請求債権(前記のとおりその額は金一〇六万一一七三円となる。)をもって、控訴人の請求原因1の(一)の貸金債権と対当額で相殺する旨主張するが、前記二のとおり請求原因1の(一)の貸金債権はその発生、存在を認めることができないところである。そうすると、控訴人が再抗弁において、(三)手形の約束手形金債権をもって、右の抗弁1の(二)の不当利得金返還請求債権との相殺を主張するのは、被控訴人が右不当利得金返還請求債権をもって、相殺により請求原因1の(一)の貸金債権を全部ないし一部消滅させるのに備えてこれを防止することにその目的があったと解されるので、前記のとおり、そもそも請求原因1の(一)の貸金債権が発生、存在せず、したがって、抗弁1の(二)の相殺の余地がない本件のごとき場合についてまで、再抗弁における(三)手形の約束手形金債権をもって、被控訴人の抗弁1の(二)の不当利得金返還請求債権につき相殺を主張するものではないということができる。

結局、控訴人の再抗弁における(三)手形の約束手形金債権による相殺の主張は被控訴人の抗弁1の(一)及び(三)の各不当利得金返還請求債権(なお、前記のとおり抗弁1の(一)の不当利得金返還請求債権は、金一六二万六九五三円の、同1の(三)のそれは、金九七万七四二六円の各限度でその成立、存在が認められる。)のみを受働債権として相殺するものとして、その効力を判断すべきこととなる。

そこで、(三)手形の約束手形金債権をもって、被控訴人の右の各不当利得金返還請求債権のうち、発生時期の早いものから順に右約束手形金に満つるまで対当額で相殺すると、前記の抗弁1の(一)の金一六二万六九五三円の不当利得金返還請求債権は、原判決別紙計算書1の番号<1>ないし<9>の各超過支払額欄記載の金額(ただし、番号<9>については、金四九〇九円の限度)の合計金六一万八二四五円の限度で、前記の抗弁1の(三)の金九七万七四二六円の不当利得金返還請求債権は、同計算書5の番号<1>ないし<8>の各超過支払額記載の金額の合計金三八万一七五五円の限度で、それぞれ消滅したこととなる。

その結果、被控訴人は、控訴人に対し、抗弁1の(一)につき、金一〇〇万八七〇八円の、抗弁1の(三)につき、金五九万五六七一円の各限度で不当利得金返還請求債権を有する。

そこで、抗弁1の(一)及び(三)の各相殺の主張につき、その効力の有無を判断する(被控訴人が控訴人に対し、平成四年四月一三日の原審口頭弁論期日に、右相殺の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。)に、抗弁1の(一)につき、被控訴人は、控訴人に対し前記のとおり金一〇〇万八七〇八円の不当利得金返還請求債権を有するが、右は、その性質上、弁済期につき期限の定めのないものである。

前記三のとおり、控訴人は、請求原因2の(一)、(二)につき、合計金一四二万四四八九円の限度で準消費貸借金債権を有するのでこれをそれぞれ金九五万円、金五五万円の割合で割り振ると、右(一)につき元金九〇万二一七六円(利息は昭和五七年四月一六日から同年五月一五日まで年一割八分の割合によるもの)、右(二)につき元金五二万二三一三円(利息は昭和五七年四月一七日から同年五月一六日まで年一割八分の、遅延損害金は昭和五七年五月一七日から支払済まで年三割六分の各割合によるもの)となるところ、右(一)の債権が弁済期が早いので、前記の抗弁1の(一)の金一〇〇万八七〇八円の不当利得金返還請求債権をもって、右債権を受働債権として相殺するに、右相殺適状の時点(なお、自働債権たる不当利得金返還請求債権が期限の定めのないものであるので、右受働債権の弁済期日である昭和五七年五月一五日が右相殺適状の時点となる。)で、右受働債権たる準消費貸借金債権は、元利金合計で金九一万五四八六円(円未満切捨て。90万2176円+90万2176円×0.18×<省略>)となるので、右の限度で、被控訴人の前記不当利得金返還請求債権が消滅し、その結果、被控訴人はいまだ金九万三二二二円の不当利得金返還請求債権を有する。そこで、これを自働債権として右(二)の債権と相殺するに右相殺適状の時点(前同様の理由により、右受働債権の弁済期日である昭和五七年五月一六日が右相殺適状の時点となる。)で、右受働債権は利息債権が金七七〇六円(円未満切捨て。52万2313円×0.18×<省略>)、元金債権が金五二万二三一三円となるので、前者から後者へ順次相殺充当すると、その結果、控訴人は、いまだ、被控訴人に対し、金四三万六七九七円及びこれに対する弁済期日の翌日である昭和五七年五月一七日から支払済みまで年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有するということができる。

抗弁1の(三)につき、前記のとおり被控訴人は、控訴人に対し、金五九万五六七一円の不当利得金返還請求債権を有するが、右は、その性質上、弁済期につき期限の定めのないものである。

前記三のとおり、控訴人は、請求原因3の(一)、(二)につき合計元金九四万七一六七円の準消費貸借金債権を有するので、これをそれぞれ金六〇万円、金四〇万円の割合で割り振ると、右(一)につき元金五六万八三〇〇円(利息は昭和五七年四月二二日から同年五月二一日まで年一割八分の割合によるもの)、右(二)につき元金三七万八八六七円(利息は昭和五七年四月二三日から同年五月二二日まで年一割八分の、遅延損害金は昭和五七年五月二三日から支払済まで年三割八分の各割合によるもの)となるところ、右(一)の債権が弁済期が早いので、前記の抗弁1の(三)の金五九万五六七一円の不当利得金返還請求債権でもって、右債権を受働債権として相殺するに、右相殺適状の時点(前同様の理由により、右受働債権の弁済期日である昭和五七年五月二一日が右相殺適状の時点となる。)で、右受働債権たる準消費貸借金債権は元利金合計で金五七万六六八四円(円未満切捨て。56万8300円+56万8300円×0.18×<省略>)となるので右の限度で、被控訴人の前記不当利得金返還請求債権が消滅し、その結果、被控訴人は、金一万八九八七円の不当利得金返還請求債権を有するので、これを自働債権として右(二)の債権と相殺するに、右相殺適状の時点(前同様の理由により、右受働債権の弁済期日である昭和五七年五月二二日が右相殺適状の時点となる。)で、右受働債権は、利息債権が金五五八九円(円未満切捨て。37万8867円×0.18×<省略>)、元金債権が金三七万八八六七円となるので、前者から後者へ順次相殺充当すると、その結果、控訴人は、いまだ、被控訴人に対し、金三六万五四六九円及びこれに対する弁済期日の翌日である昭和五七年五月二三日から支払済まで年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有するということができる。

五 被控訴人は、再々抗弁において、平成五年二月一日の当審口頭弁論期日に、被控訴人の不当利得金返還請求債権をもって、(三)手形の約束手形金債権と対当額で相殺をする旨主張するが、前記のとおり、控訴人は、右相殺に先立って、再抗弁において、平成四年四月一三日の原審口頭弁論期日に、(三)手形の約束手形金債権を自働債権として相殺をなし、その結果、右債権は既に消滅したので、被控訴人の右再々抗弁における相殺の主張は、受働債権を欠くので、理由がないことが明らかである。

六 以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、金八〇万二二六六円及び内金四三万六七九七円に対する昭和五七年五月一七日から、内金三六万五四六九円に対する昭和五七年五月二三日から各支払済まで年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。」

二  よって、控訴人の請求は、主文掲記の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却すべきところ、これと異なる原判決を主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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